君が好きなんて一生言わない。
眼下にはさっきまで歩いていた田舎町が広がっていて、景色がいい。


「いい場所だね」


「はい」


あれだけ疲れていて空気も冷たいのに表情は自然と綻んだ。




「ようやく来れた。


___お母さん」




開けた場所に一つだけあるお墓に笑いかけた。

そこには母の旧姓が書かれていて、さみしいけれど母親のものだと信じるには十分だった。


お母さんのお墓に参ることができたのは今日が初めてだった。

お父さんのお墓は中村家が守ってくれているらしい。私も何度かお墓参りしたことがある。

けれど親戚で誰一人、母のことを語る人はおらずお墓参りする人もいなかった。


お母さんのことを思いだしてからずっと行きたいと思っていた場所だ。


「ほら、感動してないで早く祈ろう」


椎先輩に促されて私はその墓石に近づいた。

花らしきものが飾られていたらしいけれどすっかり枯れはてて茶色に変化している。

それを取り換えて私は持ってきたスノウドロップを供えた。

椎先輩が学校で育ててくれていたものだ。


「いやあ、まさか椎先輩がお母さんとそんな約束をしていたとは知りませんでしたよ」


私が笑うと、椎先輩は真面目な顔をして「言う機会、なかったし」と呟いた。

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