君が好きなんて一生言わない。
「俺がここにいること、不思議だって顔してるね」


心を覗き見たようにそう言う先輩は言った。


「別に、自習になったから、ちょっと抜け出しただけだよ」


「ここにいること、秘密ね」と言う、先輩の穏やかな雰囲気に張り詰めていた糸が切れるみたいで、少し視界が滲んだ。


先輩は私の教科書に目を落として複雑そうな顔をする。まるで自分のことみたいに悲しそうな、苦しそうな表情。


「あー…はは、まあ、よくあることですから」


先輩にそんな顔をさせてしまうのが申し訳なくて、私はどういう顔をしたらいいか分からなくて、笑って見せた。


「笑うことじゃないよ」


先輩はそう言った。静かに言った。

それから教室の後ろに置いてあるセロハンテープを持ってくると、ひとつひとつ大切そうに、ジグソーパズルを組み合わせるみたいにして元の形に戻していく。


「先輩、何をしてるんですか?」


「ん?こうやって1つ1つテープで止めていったらもとに戻るかなって思って」


「ジグソーパズルみたいで、けっこう楽しいよ」なんて先輩は言う。


先輩は魔法使いみたいだ。


先輩と一緒にいたら、悲しいことが楽しいことになる。

先輩と一緒にいられたら、それだけで幸せだって思えてしまう。


先輩は、不思議だ。
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