君が好きなんて一生言わない。
「やるわね、麗!」


ミーハーな紗由は私の話を聞くと自分のことのように喜びながら私の背中を叩く。ちょっと痛い。


「…実はわたしも他の友達と一緒に見る約束していてね」


「麗は行きたがらないだろうと思っていたし、声をかけなかったの」という紗由は申し訳なさそうにするが、紗由が申し訳なく思うことは何もない。

私はユズ先輩や椎先輩からの誘いがなければ見に行こうだなんて思いもしなかった。

自分からわざわざ蜂の巣に入ろうと思う人なんてまずいないだろう。私だってその一人だ。


「楽しんでおいでね」


紗由が微笑むので、私も微笑み返した。

それから紗由は一緒に行く人と約束があるとどこかに行ってしまった。


1人になった私はまたバレないように身を潜めながら学校へと向かう。


学校に近づくにつれて人が多くなりざわめきも大きくなる。

他校生もいるのだろう、私の知らない制服に身を包む高校生もいる。

色々な学校からこの学校にやってきているけれど、男子よりも女子が多いようで、休日だからか学校に来るというのにいつもよりもみんなオシャレで、私服姿の人も見られた。

これだけ大勢の人がいれば、私があの清水麗だと気づく人も少ないだろう。そうだと信じたい。

私は清水麗ではない、私は決して清水麗ではない、と自己暗示をかけるように心の中で繰り返しながら歩いていると一際大きな盛り上がりを見つけて顔をあげた。


「…良かった、会えた」


多くの女の子達に囲まれていた椎先輩が、私を見つけて少し笑う。

私は目を見開いた。

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