君が好きなんて一生言わない。
先輩は私の顔を覗き込む。

まっすぐ前を見ると視界いっぱいに椎先輩が映ってしまって、私はどこを見ていいのか分からなくなり目を泳がせた。


「これは、その、へ、変装です!」

「変装?」


急に恥ずかしくなって目を伏せて、私は言い切った。


「椎先輩と一緒にいるところを見られたら血祭りなので!」


それに椎先輩に迷惑をかけたくない。


すると「ぷっ」と吹き出すような声が聞けて、顔を上げると椎先輩が笑っていた。

こんなに椎先輩が笑うところを見たのは初めてかもしれない。


「あはは、血祭りか。それは大変だね」


はあ、と息を吐き出して落ち着いた先輩は「勿体ないな」と呟くと私の顔に手をのばす。

それから私の眼鏡の柄を持つと、するりと私から眼鏡を取り上げた。

「何するんですか」と私が言うよりも先に、先輩は微笑んだ。


「麗ちゃんはそのままがいちばん可愛いのにね」


私は目を見開いた。

先輩が言った言葉が信じられない。


「う、えっと、あの」


顔に熱が集まり視線は泳ぐ。

思考回路がショートしたのか脳はパニックを引き起こしてうまく対処できない。


だって信じられるわけがない。

あのクールな椎先輩が、私なんかに「可愛い」と言ったなんて。


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