君が好きなんて一生言わない。
「虐められてる子が目の前にいて助けない理由なんてないでしょ」


それから先輩は一歩前に歩を進めながら言う。


「それに、どんな状況でも人を虐めていい理由なんてこの世に存在しない」



がつんと頭を殴られたような衝撃が走り、私は目を見開いた。

でもさっき女の子達に殴られた時とは違う。

目の前が開けていくような、そんな感覚だ。



「約束してくれる?もう二度と麗ちゃんに近づかないで」



椎先輩が睨みつけると女の子達は恐怖に怯えた表情で走り去っていった。

嵐が去って行ったみたいに、急に静かになった。



「…椎先輩」


呼びかけると椎先輩は「ごめん」と謝ると私を抱き寄せた。


「えっ、え、え!?」


驚きのあまり温かい腕の中から抜け出そうとする私に「ごめん、温める方法これしかなくて」と言う。


「麗ちゃんがなかなか帰ってこないから、探してた。けどまさか、俺のせいでこんな目に遭ってたなんて」


私を抱き寄せる先輩の腕が強くなる。

申し訳ない、悔しい。そんな気持ちが伝わってきて、体は寒いのに心は温かくなる。

なんだか不思議だ。


「そばにいられなくてごめん」


私は首を横に振った。


「あ…謝ったり、しないでください」


それから先輩に回す腕の力を強くする。


「先輩、こんな私を探してくれてありがとうございます」


私は今、心から嬉しいんですよ。

先輩が探してくれたこと、助けてくれたこと。

言ってくれた言葉も全部。


だからもう、そんな顔をしないで。


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