君が好きなんて一生言わない。
こんな黒目がちの可愛らしい瞳で切なく見つめられたら目を逸らせるわけがない。

釘付けになってしまいその場から動けなくなった私においついた先輩は私に問うた。


「麗ちゃんは犬が好きなの?」


私は振り返ると首を上下にこくん、こくんと振りながら「好きです」と即答した。


「だって、すごく可愛いじゃないですか!」


ぬいぐるみのようなふわふわの毛並み、愛らしい黒目、仕草。ああ、無垢だ。無邪気だ。

ショーウィンドーに張り付いて子犬を見つめている私に「そうだね、可愛いね」と先輩は同意したけれど、その言葉には気持ちが乗っていないことくらいすぐに気づいた。

けれどそんなことを気にしているほどの余裕はないし、どうだってよかった。


「はぁ、ため息が出るほど可愛いですね」


ふわふわな毛並みのまっしろなポメラニアンの子犬の可愛らしさの前には全てどうでもいい。この可愛さが存在してくれているのなら、もうそれでいい。それだけでいい。


「こんなに可愛いわんちゃんがいる生活、どんなに幸せだろう…」


このちっこいふわふわなポメラニアンがそばにいてくれたら。

ああ、想像するだけで幸せだ。


妄想の世界にトリップしている私に、「本当に好きなんだね」と先輩は言う。


「麗ちゃんは今犬は飼っていないの?」


その声で現実に引き戻され、「飼ってないんです」と答えた。

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