君が好きなんて一生言わない。
「犬でも、猫でも、そばにいてくれたら、嬉しいんですけどね」


そしたらきっと、私の毎日はもっと穏やかになるだろうに。

でもおばさんは動物が嫌いだから、絶対飼えない。

ガラスごしにその白いふわふわをなぞる。


「麗ちゃん…」


先輩が私の名前を呼んだその時だった。


「あれ、椎?」


遠くからよくとおる声が聞こえた。

それは私も聞いたことのあるものだった。



「…ユズ」


声が聞こえてきた方に目を向けると、部活道具が入っているのだろうエナメルのバッグを肩にかけたユズ先輩が目を見開きながらやってきた。



「珍しいな、椎がこんなところにいるなんて」

「まあ、ちょっとね」


「どういう風の吹き回しだ?」と不思議そうな顔をしながら、私に気づいたらしいユズ先輩は「もしかして、麗ちゃんか?」と尋ねる。


「眼鏡かけてるから気づかなかった。雰囲気変わるんだな」


ユズ先輩は真剣な表情で覗き込むように私を見つめる。

近距離で見つめられてどうしたらいいか分からなくなって頭がパンクしかけた私をみかねてか、椎先輩は「近づきすぎ」とユズ先輩の肩を掴むとグイと後ろにさげた。


「近づきすぎ。麗ちゃんが困ってるでしょ」

「あ、すまん」


ユズ先輩に謝られて、私は「いえ」と首を横に振る。

緊張しているからかドキドキと心臓は早く鼓動している。

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