君が好きなんて一生言わない。
恐る恐る顔を上げると、そこには仁王立ちをして私を睨みつけている人物がいた。


「…美紅ちゃん」


「あんたに話がある」


美紅ちゃんは私を凍てつくような冷たい目で見降ろしていた。


その目はおばさんそっくりで、あまりの迫力に寿命が縮んでしまいそう。

震える心臓をなんとか強くして、私は平静を装った。


「…話って、なに?」

「清水麗のくせにため口で話すな。調子にのってんじゃねーよ」

「…ごめんなさい」


美紅ちゃんは鋭い視線で私を見下し溜息を吐く。


「あんた居候のくせに、こんな遅くに帰ってきていいと思ってる?こんな時間まで遊んで、楽しんでいいとでも思っているわけ?」


「自惚れるな」と美紅ちゃんは不快な表情を見せた。

清水麗にはこんな時間まで楽しむ自由なんてないとはっきり言われて、私はさっきまでの夢みたいな幸せな時間からいっきに現実に引き戻された。

そうだ、私は本当はこういう場所に生きていたんだと、夢を見るなと釘を刺されるようだった。


「あーあ、本当に嫌になる。なんでこんな奴と血が繋がっているんだろう」


美紅ちゃんは「二度とこの家に迷惑をかけるな」と言い放つと、自室へ戻ってしまった。

取り残された私は、現実と夢の温度さに打ちひしがれた。
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