君が好きなんて一生言わない。
「…昨日ね、先輩とショッピングセンターに行ったんだ」


辺りを見渡してから、誰にも聞こえないくらい小さな声でそう言うと、紗由は目を見開いた。

元から大きな紗由のまん丸い目が見開かれていて、その表情だけで一体紗由がどれほど驚いているのかすぐに分かる。

それから紗由が口を僅かに開いて息を吸い込んだのを見逃さなかった私は、慌てて紗由の口を塞ぐために手を押しつけた。

このことがもしバレたりしたら、私はもう二度と朝日を拝めなくなる。

紗由には申し訳ないが、私が明日も生きるためにはこれしか方法はない。ごめん、紗由。

しばらくして紗由が落ち着いた頃、紗由は私の手をどかすと「ごめん、心乱れた」と深い溜め息を吐いた。


「驚いた…。ものすごい進展じゃない!」


まるで自分のことのように嬉しそうな顔をする紗由。

気持ちが盛り上がっているのか「それで嬉しそうな顔をしていたのね」なんて独りごちている。


「最近、麗が嬉しそうな顔をしていることが多くなったのも、すべて椎先輩のおかげね」


「椎先輩にはわたしも感謝しなくちゃ」と笑う紗由に、「優しいね」と私は呟いた。

< 82 / 179 >

この作品をシェア

pagetop