君が好きなんて一生言わない。
「紗由は優しいね、こんな私のことをこんなに喜ぶなんて。そんなひと、他にはいないよ」


家では、おばさんも、おじさんも私のことで喜んだりしない。

私のことを話題にすることすら避けている。

私にもしも喜ばしいことがあればきっと不機嫌な顔をして怒鳴るだろう。


お前なんかが幸せになっていいと思っているのかと、美紅ちゃんと同じ言葉を投げかけて。


けれど紗由は「そんな、大袈裟なことではない」と首を横に振る。


「大好きな友達に嬉しいことがあったんだもの。喜ばない方がおかしいわ」


家でも、学校でも、いつも否定されてきた私が、ぐれずに生きてこれたのは、紗由のお陰だ。

自分が存在しているだけで疎まれてきた私に、学校が希望だと教えてくれたのが紗由だ。


紗由に出会わなければ私はどうなっていただろうか。考えるだけでも恐ろしい。


「ありがとう、紗由」


だから私は、紗由の力になりたい。

紗由が幸せになれるために、そのために頑張りたい。

紗由のためならきっと、どんなことでもできる。


それを伝えると紗由は「ありがとう」と笑った。目を細めて、楽しそうに笑った。


そしてチャイムが鳴り響き、授業の始まりを告げる。


最近、学校に来ることが幸せだと思える。

でもそれは椎先輩のおかげだけではない。

紗由がいてくれたことも、すごく大きい。
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