君が好きなんて一生言わない。
「それって、どういう…」


「あんたよりもずっと椎先輩が好きだって思ってる人がいるけど、それなのにあんただけが椎先輩に近づけてる。

本当にずるいって、思わない?」


椎先輩のことが好きなひとがいる。

それは、当然だと思う。

ただでさえ、学校一と言われるほどの美貌を持っているんだ。

その上に冷たいけれど性格は良いし、優しい。

そりゃ、女子が放っておくわけがない。


「あたしが言いたいこと、分かる?

椎先輩がモテるってことを言いたいわけじゃないんだよ。

あんたのせいで、他の女の子が苦しんでるってこと。

あんたが他人を苦しめてる張本人ってこと」


私のせいで苦しむ人がいる。

私がいなければ苦しまなくて良かったのに、私がいたせいで。


美紅ちゃんの言葉に呆気にとられる私を見て、美紅ちゃんは口角をあげた。

さらりと長い髪を耳にかけて、掴んでいる私の腕を強い力で引き寄せる。


「そう、あんたのそばにいる人が、あんたのせいで苦しめられている。

けど、あんたは微塵も気づかない。

何気ない会話が、その人をくるしめていること」


「まるで悪魔みたいだね」と美紅ちゃんは言う。


「悪魔…?」
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