君が好きなんて一生言わない。
何が起こったのか分からなくて、だけど伝わってくる先輩の体温に否が応でも気づかされる。

私は顔が熱に集まるのを感じながら、だけど必死に抵抗した。

頭には紗由の笑顔がいくつも浮かんでいた。


「…離してください」

「嫌だ」


「何してるんですか、もう昼休み終わります」

「それでも嫌だ」


先輩はかたくなに嫌だと言う。

頑固なのはどっちだ、と溜息を吐きだしたいくらいだ。


「今、俺が離したら、麗ちゃんは泣くんでしょ?麗ちゃんが泣くなら、俺は麗ちゃんのそばにいたい」


先輩は耳元で穏やかだけど切ないような心締め付けられる声でそう呟く。




「そばにいさせて」




…先輩が分からない。

さっぱり分からない。


「なんで、そんなに優しいんですか…」


涙で滲む声で訴えかけても、明確な答えは返ってこない。



「…麗ちゃんは勘違いしてる。俺は、優しくなんてないんだよ」


先輩は嘘つきだ。

こんなに優しい人なんて、私は他に知らない。


もう、心が壊れそうだった。


ずっと気づかないようにしていた気持ちに、無視はできなくなってしまった。




先輩が、好き。



なんて、紗由の気持ちを知ってしまったのに言える訳もなくて、私はただ声を押し殺して泣いた。

ただ、泣いていた。


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