跪いて愛を誓え
 湯田さんが困り果てているというのは、今日一番に来店したお客様の事だった。その人は青葉を指名し、そしてヘルプに『スイ』を頼んできたそうだ。

 もちろん湯田さんも青葉も断ってくれた。だけど……


「お客様は、どうしても、と仰って……それで、五分だけという条件でこちらが折れるしかなくて」

「でも……」


 そもそも私が男装で接客を止めたのは、それが原因でジャスティスと勝負をする事になったからだし。お客様を騙しているというヒロの言い分も、もっともだと思ったからだ。

 それは青葉も湯田さんも、分かってくれているはずなんだけど……

 今度は私が困った顔になってしまい、湯田さんが慌てる。


「分かってます! スイさんの気持ち、分かっていますけど……でも……」


 湯田さんもそれは十分わかって言っているんだ。だから私がここでごねると、湯田さんが板挟みになってしまう。それに今は、少しでも売り上げを上げる事が重要だから。

 仕方なく私は、五分だけという条件でヘルプに出る事にした。





 フロアに出ると店内は満席。ホストのみんなの努力で、かなりのお客様が来てくれたみたいだ。

 フロアの中心、シャンデリアの真下の一番豪華な席に青葉と、そのお客様は座っていた。
< 228 / 265 >

この作品をシェア

pagetop