跪いて愛を誓え


「……あの、何処かでお会いした事、ありますか?」

「いいえ、無いわ」


 マダムはきっぱりと答えた。

 じゃあ、どうして私を指名したんだろう。私がこのティアーモで接客してたのなんて、ほんの二ヵ月ぐらいの間だ。その間にこのマダムが来店した記憶は無い。

 何処で私を知ったんだろう。ますます不思議だった。


「――――スイ、彼女のオーダーまだだから」


 私が不思議に思っていると、青葉が口を挟んだ。見ると、テーブルの上には何も無い。どうやらまだ何もオーダーしていないようだった。

 青葉に促されて、私は慌ててマダムに聞いた。


「あの、何を飲みますか?」

「そうね……じゃあ、ルイ十三世を」


 ――――ルイ十三世?!


 サラリと笑顔で言われた、その言葉に驚いた。

 だってルイ十三世といえば、ティアーモでもかなり高い部類に入るブランデーだ。今はジャスティスとのイベント価格で金額がすり合わせてあるから、確か百万ぐらいしたと思う。

 それなのに、こんなにあっさりと……

 呆然とする私にマダムはまた、にっこりと笑う。本当に、一体この人何者なんだろう。

 青葉の方へ視線を向けると、彼も驚いた様に少し肩をすくめた。
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