跪いて愛を誓え
 すぐに観音開きの箱に入ったルイ十三世が静かに運ばれてきた。普通、こんなランクのボトルが入った時は、お店のホスト全員で盛大に盛り上げるものだ。

 だけど今回は、シャンパンコールみたいな大騒ぎは苦手だというマダムの要望で、ただ静かに運ばれてきただけだった。

 本来なら、ヘルプの私が受け取って開封するんだけど……先に手を出して受け取ったのは、青葉だった。マダムにボトルを見せてから、スルスルと器用に開けグラスに注いだ。

 流石、NO.1ホスト。お高いお酒も開け慣れてる。

 マダムはグラスを手に取り色と香りを楽しむと、口を付ける。そして一口飲むと満足そうにまた、微笑んだ。


「『スイ』って、いい名前ね。誰に付けてもらったの?」

「え? あ、これは青葉に……」


 私がそう答えると、マダムは青葉に視線を向けた。そして彼の目をじっと見つめる。流石の青葉も、それには気圧されてしまった様だ。身動き一つせず、マダムを見つめ返す。

 マダムは青葉ににこりと微笑んだ。


「貴方も同じね。ちゃんと受け継がれてる」


 マダムの言う事は、やっぱり意味が分からない。

 でも……どうしてだろう。何処か優しくて懐かしい、そんな気持ちになる。
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