跪いて愛を誓え
 湯田さんも青葉も、無かった事にするのには賛成だ。それはそうだろう。そうなればティアーモは閉店の危機を免れるし、全ての問題が解決するんだ。

 だけど……

 青葉と湯田さんに、もちろんお前も賛成だろ、という視線を向けられたが、私はどうしてか言葉が出てこなかった。


 そうする事が一番いいんだろう。頭では分かっているけど、だけど……本当にそれでいいんだろうか。


「……貴方の目は、本当に伊吹さんにそっくりね」


 自分の心に引っかかる何かに迷っていると、正子さんは唐突にそんな事を言った。伊吹(いぶき)って……おばあちゃんの事だ。


「おばあちゃんを知っているんですか……?」

「勿論よ。私のお師匠様なの」

「お師匠様?」


 正子さんがジャスティスを開店した時に知り合って。ジャスティスの何年も前からティアーモを経営していたおばあちゃんが、お店のオーナーとしてのいろはを教えてくれたそうだ。


「お店の経営だけじゃなく、人としての色々な事も教えてくれた。伊吹さんは本当に素敵な人だったわ」


 まるで私の後ろにおばあちゃんがいるみたいな、そんな懐かしそうな表情で話してくれた。


「生前、伊吹さんが言っていたの。自分の跡を継がせたい孫がいるって。今はまだ若くて世間知らずだけど、真っ直ぐな愛情を受けて真っ直ぐに育った、キラキラの塊を持ってるって」

「それが、私……?」


 正子さんは何も言わずに頷いた。
< 242 / 265 >

この作品をシェア

pagetop