跪いて愛を誓え
 青葉は私のすぐ目の前まで来ると突然、スッと屈んで片膝を付いた。そして恭しく私の手を取る。





「今宵ひととき、貴方に愛を誓います」





 姫の前にかしずく騎士のごとく、青葉はそう言いながら私の手の甲にキスを落とした。

 まるで――――キスを落とされた手が、心臓になってしまったみたいだ。ドキドキと脈を打った血液が、手から体中に流れて。本当の心臓まで鼓動を速める。

 プロポーズのような台詞と跪く青葉の姿に、周りでキャー! と歓声が上がっていたが、その声がひどく遠くから聞こえるみたいに感じた。

 青葉はまた立ち上がると、私の手を握ったまま席へ移動を始めた。オロオロしているおぼつかない私の足取りに合わせ、ゆっくりと赤い絨毯の上を音も立てずに。


 案内された席は、店の中央にあるシャンデリアの真下。一番広くスペースが取ってあって、一番目立つ席だった。青葉に促されてソファに座ったけど、全然落ち着かない。

 周りのお客の視線が、突き刺さるように注がれているから。

 それはそうだよね。みんな女性は気合入れてドレスアップしているのに、私はただのワンピース姿。そんな私が、NO.1ホストを独占しちゃってるんだから。

 そんないたたまれなさを完全に無視して、青葉は私の隣にまるで恋人のように密着して座った。香水でも付けているんだろうか、ふわりといい香りがする。
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