跪いて愛を誓え


「和泉、ドリンクはどうする? 初回だから一杯は無料だよ」


 低くて甘い声で、彼は堂々と私の名前を呼び捨てにした。


「わ、私、お酒はあんまり……」

「そう、でも甘いカクテルは? カンパリオレンジとか飲みやすいと思うけど」

「はあ……じゃあ、それで……」


 私がオーダーを決めると、青葉は片手を上げる。するとすぐに若いホストが一人やって来て、注文を聞いてバーカウンターの方へ去って行った。

 オーダーが取り終わるとふいに、青葉は私を見て笑みをこぼした。


「な……何?!」

「和泉、緊張してるのか?」


 してるに決まってる! だってただでさえ、ホストクラブなんて初めてだし。それに……


「もっとリラックスしないと、ここでは楽しめないよ」


 そう言いながらサラリと私の髪を触った青葉は、何だか事務室で会った彼とは違う。あんなに偉そうで、俺様だったのに。


 スーツを身に纏った青葉は優しくて奇麗で、何でも望みを叶えてくれそうな王子様みたいだ。


 やがてカンパリオレンジが二つテーブルに届き、私と青葉はそれで乾杯した。一口飲むと、柑橘系の爽やかな甘さが美味しい。青葉も同じの飲んでるけど、もしかしてあれも私が料金を払うんだろうか。……でもカクテルぐらいなら、それ程高い事も無いだろうからいいか。
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