跪いて愛を誓え
 カンパリオレンジのお陰で落ち着いてきたのかも。周りの様子も少し見えるようになってきた。

 気が付いたら店内はほぼ満席になっていた。落ち着いた雰囲気の音楽が静かに流れ、ザワザワとした話声。時々、盛り上がっているのか、笑い声や歓声が聞こえてくる。

 みんな楽しそうだ。


「――――どう? 初めてのホストクラブの感想は」


 突然耳元で、低い声が響いた。ぼんやりと店内を見ていた私は凄くビックリしてしまって。声の方へ顔を向けると、すぐ近くに青葉の顔が。

 それにまた驚いてしまった。

 落ち着く為に私はもう一度、カンパリオレンジのグラスを手に取って一口。ふうっと息を吐くと、甘い香りがした。


「……まるで、夢の中にいるみたい」


 店内中のキラキラとした灯りに、黒いスーツのホストたち。お客の女性も、少しドレスアップした服装で。

 みんな楽しそうに笑っていて、みんな幸せそう。


「――――相良のばーさんが言ってた。ここは、夢の城なんだって」


 『相良のばーさん』って、私のおばあちゃんの事だよね。青葉はおばあちゃんをよく知っているのかな。


「お客様は辛い日常から、ひと時逃避して忘れる為にこの店へやって来る。飲んで、笑って楽しんで、それが明日への力になるように、ホストはその手助けをするんだ……」


 驚いた……結構、ちゃんとした事を考えているんだ。

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