跪いて愛を誓え
 スカートをはいたのは久しぶりだった。ここへ来てからはずっと、部屋とティアーモの往復だったから。ウィッグじゃなくて自分の髪で、お化粧をしたのも。

 こんなんじゃあそのうち、どっちが本当の自分なのか分からなくなっちゃいそうだよ……


 男装しないでマンションを出る時は慎重に。辺りに誰もいないのを確認してから。でももしティアーモの誰かに見られちゃったら、初の彼女という事にしようと勝手に思ってる。

 今日は上手く誰もいなかったから、ささっと出て駅へ向かった。


 待ち合わせは駅ビルの中にある、パンケーキの美味しいカフェ。仕事帰りの千紗との待ち合わせは決まってこの店だった。中へ入るとすぐ、先に待っていた千紗が手を振ってくれた。


「――――久しぶり、和泉!」

「ごめんね、遅くなって」


 当たり障りの無い挨拶でも、千紗と一緒だと一瞬で子供の頃に返ってしまう。

 彼女の前には私の大好物の苺のパンケーキ……苺と生クリームがたっぷりで、美味しいんだ。だけど、自分の懐具合がちらりと頭を過り。私は唾をのみながらコーヒーだけで我慢することにした。


「……で、何がどうなってるのよ。いきなり居酒屋経営なんて、和泉どうしちゃったの?」

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