バージンロードで始めましょう~次期社長と恋人契約~
 小走りでブライズルームの中に駆け込んだ私は、改めて見る部屋の惨状に、一瞬たじろいでしまった。

 まさにもう、小型台風が通過した現場と言おうか、まだ初心者の空き巣の犯行現場と言うべきか。

 カーテンは引き千切られているし、壁を飾っていたアンティーク品はことごとく床の上に散乱しているし、テーブルもイスも総崩れ。

 三面鏡が割れていないのだけが救いだ。あ、まずは踏みつけられたカラードレスを、花嫁様の目につかない場所に片付けなきゃ。

 拾ったドレスを両手に抱え持ち、さてこれをどこに仕舞おうかと思案している私の目に、床の上に落ちているパール仕立てのリースが映った。

 見ればサンゴのオーナメントも、貝のネックレスも、ヒトデ型のプレートも、部屋のあちこちに散らばっている。

 これをまた飾りつけている時間なんてない。家具を元通りにしたら、紙袋にでも全部まとめて突っ込んで……。

「…………」

 不意に、涙が込み上げてきた。

 小物を揃えるために専門店に何度も足を運んだり、ネットであれこれ検索したりと、準備していたときの楽しかった記憶が甦ってくる。

 大変だったけど、すごくワクワクしたな。まさかこんなことになるなんて、ぜんぜん思ってなかった。

 だって私は本当に楽しくて、本当に幸せだったんだ……。
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