バージンロードで始めましょう~次期社長と恋人契約~
「それで表紙のデザインはどうなりましたか? ……あ、素敵」

 副社長の隣に座ってサンプルを手渡された私は、その出来ばえの良さに目を見張った。

 ウエディングノートとは、結婚式準備のためのダイアリーだ。必要なことをメモしたり、写真を貼ったり、そのときの心境を綴ったりと、挙式までの特別な日々を記録に残せる仕様になっている。

 サンプルのバインダー式ノートの表紙は、ハードカバー本のような厚みのある本格的な作りで、全体の淡いワインレッドの色合いとてもかわいらしく、白く縁取られた箔押しの模様が上品な印象になっている。

「これなら一生の記念として持ち続けるのに相応しいです。これ、いっぱい活用してもらって、素敵な思い出作りに役立ててもらいたいですね!」

 ノートの表紙を撫で回して、高級な感触を楽しんでいる私の顔を黙って見ていた副社長が、いきなり私の鼻の頭に人差し指をグッと押しつけてきた。

「むぎゅっ!?」

 とっさに目を瞑って変な声を出してしまった私の耳に、副社長の楽しそうな声が聞こえる。

「この鼻がなー。あの大泣きしたとき、真っ赤に染まってなー」

「や、やめてください!」

 肩をすぼめて身を引いても、副社長はニヤリと笑いながらしつこく追いかけてきて、私の鼻をグイグイ潰してくる。

 ちょ……やめて! ただでさえ隆起に乏しい鼻なのに、もっと標高が低くなったらどうしてくれるんですか!
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