バージンロードで始めましょう~次期社長と恋人契約~
「信じてないのか? でも事実だよ。嘘だと思うなら俺の大学時代の友人に聞いてみろ。当時ひどく当たり散らして、だいぶ迷惑かけたからな」

 気恥ずかしそうに苦笑いしているその表情から察するに、どうやら嘘ではないようだ。

 ということは、本当に副社長を振った女性がいたってこと? それは凄い。

「誰なんですか? その大人物。一度お会いしてみたいですね」

 本気で畏敬の念を込めてそう言うと、副社長はますます苦笑いをした。そしてちょっと懐かしそうな遠い目で、窓から見えるボヌシャンス迎賓館のプライベートガーデンを眺める。

「自力で起業を目指して頑張っていた女性なんだ。『恋愛してる時間はない』って、実に清々しい笑顔で断られたよ。それ以来どうも俺は、夢に向かって全力で努力しているタイプに弱いんだ」

 そう言って彼はすぐ、窓の外を眺めていた視線を私へ移した。

「そのときに決めた。今度またそんな女性に巡り会って恋に落ちたら、絶対に諦めない。なにがあってもその人を手に入れてみせるってな」

 ――ドキン……。

 真っ直ぐな目で私を見つめながらそんなことを言い出した彼に、せっかく凪いでいた私の心がまた高鳴って、頬がカッと火照ってしまった。

 まるで獲物に挑む狩人みたいな彼の視線を受け止めきれず、無意味に室内のあちこちに視線を彷徨わせながら、フツフツと火照る胸の中で自問自答する。
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