バージンロードで始めましょう~次期社長と恋人契約~
「亜寿佳、どうかお前の素直な気持ちを言ってくれ」

 切ない声に、うつむいていた顔を上げれば、私を真っ直ぐに見つめる彼の真剣な表情がある。

 なにかを期待するような目で、私の言葉を黙って待ってくれているその姿に、私の心は一瞬で捕えられてしまった。

 ここで彼に向かってなにかを言えば、その時点で、私たちの間に新たな関係が生まれるのかもしれない。

 この逸るような胸の震えは、期待なの?

 もしかして私、そうなることを望んでる?

 息苦しいほど高まる鼓動も、どうしようもなく上昇する体温も、この特別な時間と空間を彼と共有することも、私はぜんぜん嫌だと感じていない。

 彼だから、嫌じゃないんだと思う。

 貴明との関係が結婚直前で破綻して以来、こんな風に誰かに心を揺さぶられる日が来ることを徹底して拒否していたけれど、副社長だったらもしかしたら……。
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