バージンロードで始めましょう~次期社長と恋人契約~
 なにもこんな狙い澄ましたかのように電話してこなくてもいいのに。

 ……あ、いやいや。それは違うぞ私。そもそもいまは就業時間内なんだから、仕事の電話がかかってくるのが当たり前なんだ。

 筋違いの恨み節なんか心の中でつぶやいてないで、ちゃんと仕事に集中しなきゃ。

「ん? それはどういうことだ?」

 反省して気持ちを切り替えている私の目の前で、電話中の副社長が怪訝そうに眉を寄せている。

「ちょっと待て。電話じゃ埒が明かない。いまからそっちに行く」

 通話を終えた副社長が胸ポケットにスマホを仕舞って、テーブルの上のサンプル品や添付資料を手早くまとめながら私に言った。

「これからチャペルに行く。お前も一緒に来い」

「チャペル? なにかあったんですか?」

「撮影でトラブルがあったらしい」

 撮影? あぁ、そういえばちょうどいま、写真撮影がチャペルで行われているはずだ。

 この前のアンケートでチャペルの模擬結婚式の評価がとても高かったので、さらに魅力的なイメージを広く一般に伝えるために、サイトの写真を一新することになっていた。

「トラブルって、どんなですか?」

「モデル事務所の方と連絡不行き届きがあったらしいんだが、詳しいことはわからない」
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