バージンロードで始めましょう~次期社長と恋人契約~
「どうするって言っても、モデルなしでチャペルの中だけ撮影するか? それとも俺をキャンセルして別のカメラマンに依頼し直すか? 俺はそれでも構わな…… ん?」

 飄々とした態度でそんなことを言っていた村内先生が、副社長の姿を見て片眉をヒョイと上げた。

「なーんだ。男の方のモデルは来てるじゃねえか。あんた、新婦役のモデルは一緒じゃねえのか?」

「は?」

 いきなり意味不明なことを言われて目を瞬かせている副社長に、村内先生は面倒くさそうな表情でガリガリと頭を掻きながら指示を出す。

「ま、いいや。とにかく新郎役なんだからすぐにタキシードに着替えて来い」

 そのセリフを聞いた私と副社長は、無言で顔を見合った。

 この先生、もしかして副社長のことを代理で来たモデルと勘違いしてない?

「村内先生、違います。こちらの方はモデルじゃありませんよ」

 さっき事情を説明してくれた年長のスタッフさんが、苦笑いしながら先生に説明をする。

 スタッフさんと副社長の顔を「ん? ん?」と交互に見比べている先生に、副社長が丁寧に身を屈めて挨拶をした。

「初めまして。ボヌシャンス迎賓館取締役の名取響です」

「はあ? あんた、ここの責任者だったのか!」

 先生が頓狂な声を出して、副社長を頭のてっぺんから足の先までジロジロと眺めている。
< 122 / 206 >

この作品をシェア

pagetop