バージンロードで始めましょう~次期社長と恋人契約~
「よっしゃ。そうと決まれば早速、撮影に取りかかるぞ。新婦役は俺がその辺の女性社員から選ぶから、早くモデルの着替えとメイクの準備をしろ。時間が押してるんだからテキパキいこう」

 生き生きと場を仕切り始めた先生は、撮影機材が入っている大きなバッグに駆け寄り、楽しそうに口笛を吹きながらカメラを吟味し始めた。

 どうやら、もうこの案は彼の中で決定事項のようで、こちらの意見や都合を聞く気は微塵もなさそうだ。

 この人といい、うちの社長といい、なんでこうカリスマと称される人って、問答無用なハリケーンみたいに周りを巻き込んで突進するんだろう。

 突っ走る手前で、一瞬でも立ち止まって考えてみるという発想はないんだろうか?

「あの、名取さん。ここはどうかウチの先生の言う通り、新郎役をやっていただけませんか?」

 スタジオスタッフさんたちが勢ぞろいで頭を下げ、申し訳なさそうな声で副社長に懇願してきた。

 村内先生をチラチラ盗み見している彼らの切実な表情から察するに、たぶんここで先生のご機嫌を損ねたら、かなり面倒なことになるんだろう。

 なんか村内先生ってそういう傍若無人っぽい天才肌な感じだし、皆さんは本気で困っているみたい。

 そういう相手側の深い事情を察したらしい副社長が、どうやら腹を決めた様子でうなづいた。
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