バージンロードで始めましょう~次期社長と恋人契約~
「さ、他に必要な物も急いで決めましょう」

 複雑な私の心境をよそに、彼女がテキパキと小物を揃え始める。

 ドレスヘッドは、大粒パールの艶やかな存在感とプラチナの輝きが見事な、高さのある正統派ティアラ。

 ベールは格式の高い透き通るようなリバーレース製の、ボリュームたっぷりのロングヴェール。

 ブーケは真っ白なオールドローズとプルメリアを使用した、清純で可憐なラウンド形。

 心ここに在らずな心境の私は、どれもこれも勧められるまま、逆らうことなくうなづいていた。

 必要な物一式が決まると、次はブライズルームへと急かされる。

 そこで待機していたヘアメイクさんに髪とメイクを手早く整えられ、ドレスを身につけて花嫁姿になった私は、鏡に映る自分の姿を無表情に眺めた。

 ドレス。ヴェール。ブーケ。特別な日を象徴する品のすべてを身に纏ったこんな自分を、以前にも見た。

 鏡の向こうに、あの日の自分が見える。お母さんや貴明と一緒に、ワクワクしながら衣装合わせをしていた自分が。

 その後になにが起こるのかも知らずに、幸せいっぱいの笑顔を浮かべている自分が……。
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