バージンロードで始めましょう~次期社長と恋人契約~
 チャペル入り口前の階段に立ったり、参列者用のベンチに腰掛けたり、祭壇前にひざまずいてステンドグラスを見上げたり。

 要求される通りのポーズをこなし、微笑み、連続するシャッター音を聞きながら、私はひとつのことばかりをずっと考えていた。

 あの日、婚約者に捨てられて本物の花嫁になり損ねた女が、こうしてチヤホヤされて花嫁モデルをしている。

 こんな皮肉で滑稽な話はない。

 そういった卑屈な思考を敏感に感じ取ったのか、村内先生がカメラを構えながら難しい顔をした。

「なんかこう、表情が暗いんだよなあ。緊張してるのか? ……お、どうやら花婿さんの登場だぞ」

 先生のひと言で、全員の視線がスタッフ出入り口に集中した。

 ドレスコーディネーターさんを背後に従え、足早にこちらに向かって来る副社長の姿を見た女性スタッフたちが、両手で頬を押さえて息をのむ。

 私も彼の姿をひと目見た瞬間、暗い思考が一気に吹き飛ぶほどの衝撃を受けた。
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