バージンロードで始めましょう~次期社長と恋人契約~
 彼は黒に近いミッドナイトネイビー色の、とても洗練されたタキシード姿だった。

 下襟の先が尖ったピークド・ラペルの拝絹と、セミバタフライ形の蝶ネクタイは、漆黒の艶やかなシルク。

 肩から腰にかけてシェイプされたモダンなデザインが、彼のモデルばりのスタイルのよさを際立たせ、同時に男の色香と風格も匂い立たせている。

 上着の着丈の長さも、パンツの側章ラインも、シャツの胸プリーツも靴の形状も、格式と品位において一切の抜かりがない。

 なんてエレガントな装いが似合う男性なんだろう!

「おお、こっちも王侯貴族みたいだな! さあ、ふたりで祭壇の前に向かい合って立ってくれ!」

 興奮した村内先生の声を背に、副社長が脇目も振らずに私の元へ歩いてくる。

 その真っ直ぐな黒い瞳に射抜かれて、私は声もなく彼を見つめ返した。

 周囲のざわめきなんて、もうぜんぜん耳に入らない。ステンドグラスの輝きも、美しいアクティークの品々もまったく目に入らない。

 私の視界は彼だけ。意識のすべてが彼に集中して、どうしようもないほど囚われてしまう。
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