バージンロードで始めましょう~次期社長と恋人契約~
 あのときの貴明も、いまの副社長のように満面の笑みを浮かべて私に手を差し出していた。そのうえセリフまで同じだなんて、どんな運命のイタズラなの?

 悪夢のような記憶を抉られ、混乱して青ざめる私を見て、副社長が怪訝な顔をする。

「亜寿佳? どうし……」

「早くしてくれ! いまちょうど光の加減がいいから逃したくないんだ!」

 村内先生に大声で急かされた彼は、気掛かりそうな表情のまま、とにかく私を祭壇前にエスコートした。

 そして新郎新婦役として見つめ合う私たちに、カメラの眩しいフラッシュが降り注ぐ。

 その連続する光と音が引き金になったのか、私の脳裏に過去の記憶が次々と甦ってきた。

 私に愛の言葉を告げる貴明。

 結婚を申し込む貴明。

 一緒に式の準備をする貴明。

 あんなに愛し合っていたはずの彼が私にくれた約束も、幸福も、夢も、なにもかもが真っ赤な嘘になり、崩壊した。

 古傷が獣のように暴れ出す。記憶という名の画像が脳内で再生されるたび、カサブタで覆われていたはずの傷口から、鮮血が滲みだす。
< 135 / 206 >

この作品をシェア

pagetop