バージンロードで始めましょう～次期社長と恋人契約～
　きっと彼はわかっているんだ。私が今、なにを考え、なにに怯えているのかを。

　だから、『お前の目の前にいるのは過去の亡霊ではなく、俺だ』と主張している。

　私だって、わかってる。わかっているのに……どうしても目の前の副社長と貴明の姿が重なってしまう！

「無理、です」

　蚊の鳴くような涙声でそう答えると、副社長の目つきが急に険しくなった。

　そして、両手で私の二の腕をギュッと掴んで、挑むような目をして顔を近づけてくる。

「副社……！」

　私の声と唇は、彼の唇に塞がれてしまった。

　男性スタッフたちの息をのむ音と、女性スタッフたちの細い歓声が聞こえて、カッと耳が火照る。

　衆人環視の中での思いがけない行為に息が止まり、雷に打たれたように全身が張りつめ、私の頭は完全に混乱した。

　私に対して強く意思表示するような、強引なキス。この柔らかい感触と温度は、過去の亡霊のものじゃなくて、副社長の唇と体温だ。

　それを理解させようとしてくれている彼の真剣な気持ちが、唇の熱を通して伝わってくる。でも……。

「嫌！」

　私は彼の胸を思い切り押し返し、駆け出した。
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