バージンロードで始めましょう~次期社長と恋人契約~
「亜寿佳!」

 背中から聞こえてくる声を振り切り、ドレスの裾を持ち上げながら、私は無我夢中でチャペルの出入り口から外へ飛び出した。

 石畳の小径にヒールの音を響かせ、風にヴェールを靡かせて、プライベートガーデンを必死に走り抜ける。

 緑に覆われた庭の最奥に、白い西洋風の東屋があって、そこに飛び込んだ私は中のベンチに身を投げ出すように倒れ込んでしまった。

 息を切らして顔を上げれば、穏やかな午後の日差しを浴びた秋の庭園が目前に広がっている。

 八重咲きの艶やかなダリア。華奢で可憐なコスモス。慎ましくて愛らしいビオラ。

 澄んだ秋空の下に咲く花々の晴れやかな美しさと、レンガ塀に絡まるツタの紅葉の優しい彩りが、悲しい涙で霞んで見えた。

「亜寿佳」

 唐突に後ろから副社長の声がして、私はビクッと体を震わせた。

 胸が破裂しそうなほど波打つ。これからふたりの間に交わされるだろう会話が恐ろしくて、シルクの手袋に包まれた両手を強く握りしめた。

 だって言葉を交わしたら、すべてが終わってしまう。

 それは自分のせいだと知っていながら、その避けられない現実が悲しくて、やりきれなかった。
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