バージンロードで始めましょう~次期社長と恋人契約~
『仕方がない』では済まさない
 次の日、私は副社長から与えられた休日を、ほとんど自室に引き籠って鬱々と過ごしていた。

 巣ごもり中の鳥みたいにずっとベッドの中に潜り続けていると、時間の経過がよくわからない。

 いま何時だろうと思った矢先に、控えめにドアをノックする音がして、お母さんの声が聞こえてきた。

「亜寿佳、お昼ご飯食べないの?」

「あー……。あんまりお腹空いてないから、いいや」

 布団の中からモゾモゾと顔だけ出してそう答えると、少し間を置いて、また遠慮がちな声がドアの向こうから聞こえてくる。

「朝もほとんど食べてないけど大丈夫?」

「うん。そのぶん晩御飯はしっかり食べるから大丈夫」

「わかった。もし晩御飯までにお腹が空いたら食べに来なさいね」

 優しくそう言ってくれたお母さんが、部屋の前からゆっくり立ち去っていく気配がする。

 またモゾモゾと羽毛布団の中に潜り込みながら、つくづく思った。

 心配、かけちゃってるなぁ……。

 今の私の状況って、貴明と破局した当時とそっくりだ。あのときもこうやって部屋に籠って、梅雨に発生する黒カビみたいにジメジメしていたっけ。
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