バージンロードで始めましょう~次期社長と恋人契約~
 明日出勤したら、私の立場がどうなっているのかもわからないし。

 副社長との偽装恋愛関係が終了するなら、当然彼のサポート役も解任になるだろう。

 このままボヌシャンス迎賓館に勤め続けるのも気が引けるし、本気で進退を考えなければならないかなぁ。

 あぁ、また職まで失うことになるのか……。

 明るい要素がひとつもない思考にグルグルと嵌って、気が滅入るばかり。

 夕食の席で、つい気が抜けて暗い表情になってしまう私の顔色を、両親が心配そうに窺っていた。

 なんとか気分を浮上させようと思って、部屋で好きな本を読んだり、DVDを観たりと努力はしたものの、どうにも盛り上がらないまま翌日になってしまった。

 戦場に赴く兵士みたいな心境で出勤した私は、ロッカールームでブライダルコーディネーター用の制服に着替えて、『これを着るのも今日が最後かな』と、しんみりしながら副社長室へ向かう。

 あぁ、足が鉛のように重い。

 どんな顔をして副社長に会えばいいだろう。退職を考えていることを打ち明けたら、彼はどんな反応をするだろう。

 廊下を一歩進むごとに緊張がどんどん膨らんで、今にも立ち止まってしまいそうだ。

 そしてついに副社長室に到着した私は、しばらくドアの前で立ち往生してから、ようやく意を決してドアをノックした。
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