バージンロードで始めましょう~次期社長と恋人契約~
 そう言い切った副社長の目の濁りのなさに、私は毒気が抜かれたようになってしまった。

「自分の力で、よく考えろ。じゃあな」

 副社長は、女性社員たちから密かに送られる熱い視線を一身に浴びながら、優雅な足どりで部屋を出て行った。

 しばらく唖然としていた私は、ようやく我に返って、思い出したように文句を言う。

「ふ、副社長ったら意地悪なこと言うよね。ねぇ、泉ちゃん?」

 同意を求めたら、副社長の背中をポーっとした表情で見送っていた泉ちゃんが、キョトンとした目でこっちを見た。

「え? そうですか?」

「そうだよ。解決策があるなら教えてくれてもいいのに。意地悪だよ」

「でも私には、倉本さんならきっと答えを見つけられるから、頑張れって言ってるように聞こえましたけど?」

 ウッと言葉に詰まった私は、なにも言えなくなってしまった。実際、私もそう言っているように思えたからだ。

 さっきの副社長の目は、彼がお客様や仕事に対して、心から真剣に向かい合っているときの目にそっくりだ。

 あんな目で私を見て、あんな言葉を言うなんて、どういうつもりなんだろう。
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