バージンロードで始めましょう~次期社長と恋人契約~
それぞれの奇跡
「雅美(まさみ)さん……」

 とっさのことで、彼女の名前をつぶやくので精一杯だ。

 実は式の相談を初めてから、まだ一度も彼女と会う機会がなくて、これが二年振りの再会だった。

 硬直している私の頭の中に、当時の記憶が生々しく蘇ってくる。

 私と、貴明と、雅美さんの三人で話し合うために貴明の部屋に集まった、あの日。

 彼の思い詰めた暗い表情や、うつむいた彼女のお腹の膨らみや、部屋のカーテンの色や家具のレイアウトまで鮮明に覚えている。

 じゃあ、この赤ちゃんが、あのときのお腹の子?

 こめかみの辺りに赤い小さなリボンをつけた、一歳半くらいの色白な女の子が、雅美さんの体に抱きついて私をじっと見ている。

 その顔立ちがあまりにも貴明そっくりで、一瞬たじろいでしまったけれど、すぐに気を引き締めた。

 しっかりしなきゃ。いつか彼女に会うことになるのは当然覚悟してたでしょ?

 私は静かに呼吸を整え、目の前の『お客様』である奥様を見た。

 髪を後ろで一本にまとめ、簡単な薄化粧をしただけの顔は、当時に比べるとずいぶん落ち着いて見える。

 母親になって成長したんだろう。……私も負けていられない。

 ブライダルコーディネーターとしての職務を立派に全うしなければ。
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