バージンロードで始めましょう~次期社長と恋人契約~
 思いがけない感謝の言葉に面食らった私は、優花ちゃんを揺する動きを止めて彼女を見つめた。

 ありがとうって、なにが?

「今回こうして、私たち夫婦の結婚式のお手伝いをしてくださってありがとうございます」

 顔を上げた彼女が微笑んで、またお礼を言った。

「あ、い、いえ。こちらこそ」

 一般的な意味だとわかって、内心ホッとして肩の力が抜ける。

 だって、『あのとき貴明を譲ってくれてありがとう』とか言われでもしたら、返事のしようがない。

「私、あれからずっと悩んでいたんです。だって彼は本心では、倉本さんと結婚したかったんですから」

 ホッとしたのもつかの間、しんみりした口調でそんなことを言い出されて、私は目を丸くした。

 貴明が私との結婚を望んでいたって、どういうこと?

 たしかに一時は正式に婚約していたけれど、それを結婚式の前日に引っくり返すという大技を繰り出して、破談にしたのは貴明だ。

「元々は、私の方から主人に告白したんです。断られたけれど、『絶対に迷惑はかけない。期限付きの交際でいいから』って泣き落としで押し切りました。気が弱いけれど底なしに人が良くて、誰よりも優しい彼が本当に好きだったから」
< 180 / 206 >

この作品をシェア

pagetop