バージンロードで始めましょう~次期社長と恋人契約~
「ただ、やっぱり亜寿佳には申し訳ないと思っています。俺が彼女を傷つけた罪は、一生背負っていくつもりです」

 沈んだ声のトーンに、私はまたソロソロと壁際から顔を覗かせた。

 貴明は思い詰めた目をして、瞬きもせずにじっと床を見ている。

 優しくて真面目な性格だから、私の人生を滅茶苦茶にしてしまったと、本気で深刻に受け止めているんだろう。

 そんなに自分を責めることはないって私が言ってあげないと、彼はどんどん自分を追い詰める。

 でも、困ったな。どう言えばうまく伝わるだろう。

 そんなことを当人から言われれば言われるほど、余計に恐縮してしまうのが貴明だから。

「婚約破棄は桜井様の責任ではありませんよ。しいて言うなら、それは私の責任です」

「「え?」」

 副社長が予想外のことを言い出して、貴明のキョトンとした声と私の声がシンクロした。

 私は慌てて自分の口を手で押さえて、パッと壁の陰に隠れる。

 私と貴明の婚約破棄が副社長の責任って、どういうこと? まったく意味がわからない。

 そんな私の疑問を代弁するような、貴明の戸惑う声が聞こえる。

「あの、それはどういう意味ですか?」
< 194 / 206 >

この作品をシェア

pagetop