バージンロードで始めましょう~次期社長と恋人契約~
 副社長がそう答えた後に、扉が開閉する音がして、廊下はシーンと静まり返った。

 ひと気のなくなった空間で、私はひとり佇みながら、体の奥から滾々と湧き出してくる熱い感情を噛みしめていた。

 やがて感極まってその場にしゃがみ込み、膝を抱えて、思うさま泣いてしまった。

「響さん。響さん。響さん……」

 震える唇は無意識に、愛しい人の名前ばかりを繰り返す。

 涙がボロボロ流れて、肩を揺らしてしゃくり上げる私の脳裏に、チャペルのプライベートガーデンでの光景が甦った。

 穏やかな午後の日差しを浴びた秋の花々と、澄んだ空の下の竜胆の小径を遠ざかって行く彼の背中。

 遠ざかってなんか、いなかった。私に拒絶されたときでさえ、彼は私を想い、立ち止まることなくふたりの未来に向かって進んでいたんだ。

 自分ばかりが不幸だと思い込み、その場から一歩も動こうとしなかった、意気地なしのくせに強情な私を救うために。

 彼への感謝と、熱い気持ちと、申し訳なさが心の中で入り混じって、今にも破裂しそうだ。

 そして嬉しくて嬉しくて嬉しくて、堪らない。

 副社長、私、どうすればいいですか? こんなに素晴らしい愛情をあなたから捧げられて、どう応えればいいですか?

 ……そうだ。こうして泣いている場合じゃない。

 私には、やるべきことがあるじゃないか!
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