バージンロードで始めましょう~次期社長と恋人契約~
 旅先でずーっとマスクをつけっぱなしだった当時のことを思い出すと、我ながら笑いが込み上げてくる。

 でも今回の旅行で、そんなうっかりミスは許されない。記念の写真を山ほど撮るんだし、それは私たちの一生の思い出になるんだから。

「貴明はもう荷物のチェックした? 空港に着いてからパスポートを忘れたことに気づくのって、結構あるらしいよ?」

 でもそんなトラブルも、楽しい思い出になるのかもしれないな。なにしろ一生に一度のことなんだから。

 点検を終えたバッグのファスナーをきっちり閉めた私は、フゥッとひと心地ついて、ようやく背後を振り返った。

 そしてそこにいる貴明が、妙に真面目な顔つきでカーペットの上に正座していることに気づく。

 蛍光灯の明かりのせいか、なんだか顔色も悪くて、唇を引き締めながら私をじっと見ている目つきは、ひどく思い詰めているようだ。

「亜寿佳、聞いてほしいことがあるんだ」
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