バージンロードで始めましょう~次期社長と恋人契約~
 真剣な声でそう言って、彼は言葉を続けようとしたけれど、唇を蠢かせただけですぐにまた黙り込んでしまう。

 オドオドと視線を逸らすこの表情は、これまで何度も見たことがある。ちょっと気の弱い彼は、自分の意思を他人に主張することを苦手としているからだ。

 私にプロポーズしてくれたときも、こんな表情をしていたっけ。

 あまりにも挙動不審な態度だったから、てっきり借金の申し込みでもされるのかと思ったくらいだ。

 でも私は、彼のそういうところも好き。

 気が弱い分いつも他人の気持ちを優先して、自分は損をしがちな彼の心の綺麗さを、世界で一番理解しているのは私だと自負している。

 だからこそ彼は、私を結婚相手に選んでくれたんだ。

 これから彼がなにを言うつもりなのかはわからないけど、相手のすべてを受けいれることが、明日から始まる私たちの人生の第一歩だ。
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