バージンロードで始めましょう~次期社長と恋人契約~
「私は亜寿佳との結婚を真剣に考えています。愛する彼女と一緒に、輝かしいボヌシャンス迎賓館の未来を作って……」

「響」

 最高潮に達していたスピーチの途中で、副社長の名前を呼ぶ声が唐突に聞こえた。

 ギクッと身を震わせた副社長が、声の聞こえた方へ弾かれるように振り向いて大声を出す。

「お、お父さん! いつからそこに?」

「え!?」

 私も反射的に振り向いて、そこに立つ人物を見て思わず叫んでしまった。

「社長!」

 サロン奥の扉の横に立っているその人物は、紛れもなくボヌシャンス迎賓館の社長、名取幸喜(なとり こうき)氏だ。

 グローバルな大企業の代表という、いかつい肩書を持ちながらも温和な性格で知られる社長が、目を丸くして棒立ちになっている。

「大宮さんがいらしたと連絡を受けて、ご挨拶をしに来たんだよ。だが、まさかこんな話を聞くことになるとは……」

 サロンで騒いでいる大宮様をなんとかしてもらおうと、スタッフの誰かが社長に連絡したんだろう。

 うわあ、最悪なタイミングだ。
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