バージンロードで始めましょう～次期社長と恋人契約～

　結局あの後、本来の騒動の発端だった大宮様は、完全に蚊帳の外になってしまった。

　ブライダル業界の御大である社長がお出ましとなれば、さすがにあのまま難癖を喚き続けるわけにもいかない。

　人の良い社長に心から婚約の祝いを述べられ、笑顔で見送られて、ミス・ゴージャスはフィアンセさんと肩を並べてお帰りになった。

　……ほんとに、なにしに来たんだか。おかげでいい迷惑だ。

「あの、どうぞ頭を上げてください。大宮様が騒いだのは副社長のせいじゃありませんから」

「その件もそうなんだが、父の件に関してもだ」

　頭を上げた副社長が、なんとも複雑そうな表情で額に手を当てた。

　まぁ、たしかにそれが一番問題だけど。てっきりあの場でクビを言い渡されると思っていたのに、まさか喜ばれてしまうとは思わなかった。

「普通は自分の息子と、どこの馬の骨ともわからない娘との恋愛なんて大反対しますよね？」

「キミはどこの馬の骨でもない。うちの大事な社員だろう？」

「あ、ありがとうございます」

　ものすごく当然な口調で『大事な社員』と言われて、ちょっと面映ゆい。

　雲の上の存在から、ごく当たり前の顔でそんな風に言ってもらえたら、ちっぽけな平社員としてはやっぱり嬉しい。