バージンロードで始めましょう~次期社長と恋人契約~
 彼が役員に就任してからも、ずっと現場から離れずに仕事を続けていることは、社員たちから尊敬を集めている要因のひとつだ。

 本当にブライダルの仕事が好きなんだな。そんな風に自分の仕事への熱意を意気揚々と語れる経営者って、すごく頼もしい。

「そこで、だ。折り入ってキミに頼みがある」

 若き御曹司の勇姿を惚れ惚れと眺めている私に向かって、副社長が人さし指をビッと突き出しながら宣言した。

「俺の恋人になれ」

 緩んだ顔のまま、私はたっぷり数秒間、時間停止してしまった。

 言われた言葉の意味がなかなか脳に浸透してくれなくて、ふたりの間に奇妙な沈黙が流れる。

 コイビトニナレ? ん? コイビトって?

 恋、人……。

「……えぇ――っ!?」

 ようやく正確な意味を理解した私は、ソファーからずり落ちかけるほど驚いてしまった。

 恋人!? 私と副社長が!? なんで!?

 今の話の流れからなぜそういうことになるのか、まったくわけがわからない。しかも、『なってください』じゃなくて『なれ』とか、なにその命令口調は!
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