バージンロードで始めましょう~次期社長と恋人契約~
 冷や汗を掻きながらひたすら狼狽する私の姿を、副社長が悠々と腕を組んで冷静に眺めている。

 と、とりあえず、こっちもちょっと落ち着こう。なにがなんだか意味不明だけど、ここで言うべき私の返答はひとつだ。

「謹んでお断りいたします」

 居住まいを正し、ブンッと頭を下げつつ丁重にご辞退申し上げた私に、すかさず副社長が聞き返してくる。

「なぜだ?」

 いや、なぜって、断るのが普通でしょ!?

 それに私はもう、色恋沙汰はこりごりなんだ。あの騒動以来、そういった物とは一切の縁を断ち切るって固く決意をしたんだから。

「私はこの先一生、恋愛も結婚もしないで仕事に生きる決意をしておりますので、誰からのお申し出も受けるつもりはありません」

 肩に力を込めて理路整然と答える私に、副社長は動じる様子もなく話を続ける。

「べつに結婚しろとは言っていない。恋人になれと言ってるだけだ」

「ですから、どっちもお断りしますって言ってるんですけど!」

「そう興奮するなよ。俺はただ恋人のふりをしろと言ってるんだ」

 ……へ? 恋人の『ふり』?
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