バージンロードで始めましょう~次期社長と恋人契約~
 肩からフッと力が抜けた私の目の前で、副社長が足を組み直した。

「さっきも言ったが、この半年間の縁談フィーバーには辟易していたんだ。それが思いがけずこういう事態になってくれて、やっと父の『死ぬ前に孫の顔が見たい』系の泣き落としを聞かなくて済む。本当に助かるよ」

 心底さっぱりした顔をしている副社長を見ながら、私は戸惑うばかり。

 助かるよって、私まだ助けるなんてひと言も言ってませんが。

 つまり彼は、自分が縁談から逃れるために、私に恋人役を演じろと言っているわけだ。

「そんなことできません」

 小さく首を横に振りながら私はそう答えた。

 だって、あんなに素直に喜んでいる社長を騙すなんて心が痛む。

 それに自分の中の恋愛感情を封じている私が、恋人役なんてうまく演じられるとも思えないし。

「どなたか別に、偽装恋愛に相応しい女性を探してください」

 自分で言っておきながら、『偽装恋愛に相応しい女性ってどういう人?』とは疑問に思うけど。

「相応しい女性というなら、まさにキミだろう? あの騒動の後で別の女性を父に引き合わせたりしたら、俺の人格が疑われる」

 憮然と言い切る副社長を前に、ますます私は困惑した。

 それはまぁ、副社長のいう通りかもしれないけれど、だからと言って快く了解するわけにもいかない。
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