バージンロードで始めましょう~次期社長と恋人契約~
「それにしても私、ぜんぜん気がつかなかったです。倉本さんと副社長とのこと」

 泉ちゃんの口調に責めている感じはなかったけれど、やましい覚えがある私は、身を縮めながらモゴモゴと謝罪の言葉を口にした。

「あー、うん。驚かせてごめん」

「いいんです。なにしろ相手が相手だし、ペラペラ喋るわけにもいかなかったんでしょ?」

 副社長と私が恋人同士だという噂は、予想通り大型ハリケーン並みの速度で全社員に行き渡った。

 と言うより、副社長が強引な方法で、わざと隅々まで行き渡らせた……と言うのが正しい。

 偽りの恋人を演じるという契約を結んだあの日、仕事を終えて帰宅しようとしていた私の目の前に、副社長が颯爽と現れたときのことを、私はまざまざと思い出した――……。


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