バージンロードで始めましょう~次期社長と恋人契約~
「当然だろ? これからは昼食もできるだけ社食で一緒に食べるから、覚悟しとけ」

 私の露骨に動揺する様子が気に障ったのか、副社長は不機嫌そうな声で答えた。顔は笑ったままだけど。

「そんなの嫌です。あざと過ぎますよ。社内でベタつくとか、公私混同にも気づかないバカップルですか私たちは」

「はぁ? 社内でベタつかないでどこでベタつくんだよ。目的を考えたらそうするのが妥当だろうが。バカップルって、それこそバカかキミは」

「人に向かってバカってなんなんですか? バカって」

 お互いニコニコ微笑み合いながら、微妙にこめかみがピクついている。

 サロンの受付のときもそうだったけど、この人結構、思ったことをそのままズバッと言って人の神経逆撫でするタイプ?

 それがお育ちのよさというものかもしれないけど、私とは相性がよくない気がする。こんなんで偽装恋愛は大丈夫かな?

 そんな一抹の不安を抱えながら、顔だけはひたすら笑い続ける私たち。

 廊下ですれ違う社員たちが、副社長と平社員という組み合わせの珍しさと、不思議に凄みの漂う笑顔の応酬を奇妙な顔で眺めていた――……。

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