バージンロードで始めましょう~次期社長と恋人契約~
「もちろん私は噂なんて信じてませんけど。でもやっぱり倉本さんの方から告白したんですか?」

 好奇心に満ちた目で聞いてくる泉ちゃんの顔から、私はさり気なく視線を逸らした。

「違うよ。副社長の方から申し込んできたの」

 それはある意味、嘘じゃない。嘘じゃないけれど、まるきり事実を言ってるわけでもないからやっぱり後ろめたい気がしてしまう。

「いろいろ迷惑かけてごめんね? 私が副社長のサポートに回っちゃったから、仕事の引継ぎとかシフトの変更とか大変だったでしょ?」

 話題を逸らした私の真意に気付かず、素直な性格の泉ちゃんはニコニコしながら首を横に振った。

「気にしないでください。将来のお嫁さんを自分の手で教育したい副社長の気持ちは、もっともですから。源氏物語の紫の上みたいな感じですね」

 それはちょっと例えが違うと思うけど、私の異例な配置転属は、そういった理由で行われたと周囲には思われている。

 今はみんなこうして騒いでいるけれど、人の噂も七十五日。しばらくすれば落ち着いてくるだろう。

 ほとぼりの醒めた頃合いを見計らって、副社長と私がお互い自然に距離を取り合えば、『あぁ、やっぱり身分違いの恋は叶わなかったんだ』と、みんな同情しながら勝手に納得してくれるはず……という計画だ。
< 53 / 206 >

この作品をシェア

pagetop